デトロイトから逃げ出そう編

私がデトロイトに住んでいることは、何回も言っていますし、デトロイトが治安のよくないところであることも、ご存じだと思います。ご存じない方のために、簡単なデトロイト講座。

日本人なら中学校の地理の時間に「デトロイトは自動車産業」と習っているはずです。私も習いました。五大湖の下っちょにある街で、自動車産業の主要都市である、と。もうちょっと詳しくならうと、かのヘンリー・フォードが世界で初めて流れ作業で車を作り出し、当時のアメリカの主力産業になりました、とか。今でもデトロイトの美術館に行くと、当時の様子を描いた大きな壁画が見られます。強いアメリカのシンボルでもあるわけです。また、デトロイトには、アメリカのビッグ・スリー(ゼネラル・モーターズ、フォード、クライスラー)の本社が集まる、文字どおりの車の街です。

ところが、60年代の黒人による暴動で、街のほとんどが焼けてしまいました。今でもそれは修復されておらず、ダウンタウンには、当時のつめあとが生々しく残っています。そう、初めてそのダウンタウンを見たときは、私はたまげました。もう、ゴーストタウンと言うか、映画にでてきそうな「悪の街のなれの果て」と言うか、とにかく車からは降りれないな、というのを本能的に察知できてしまうような・・・ダウンタウンのビルはほとんど閉まっていて、落書きがされています。ホームレスのみなさんがごろごろと寝ていて、おっかなそうな人達がたむろっています。壊れた車や、警察の黄色いテープがまかれたままの建物・・・ちょっとじゃなくて、怖いです。ダウンタウンも、一部は綺麗になっているのですが、本当に一部だけなんです。そこ以外は、まだまだ美化運動がおっつかない状態のようです。

また、デトロイトは、80年代の日米貿易摩擦のときの、ジャパンバッシングの舞台でもありました。みなさん、ニュースでみたと思います、あの日本車をバゴンバゴンと叩き壊すやつ。あれがあったのもここです。今でも街で、古いステッカーが「アメリカのプライドを買おう!」という、日本車不買運動の名残を残していたりします。いやー、その当時いなくてよかったな、とは思いますけどね。今はバッシングどころか、アメリカの車企業は向かうとこ敵なし、買収しまくりで日本の企業もそのうち買われちゃうんじゃないかってなもんですので、日本人の私も安心してデトロイトに住んでいられるってもんですが。

というわけで、なんだかすごいところのようですが、実は「デトロイトのダウンタウン」がすごいだけでありまして、実はデトロイト郊外はどんどん開発されて、巨大都市になっているのですね。ダウンタウンは危なくって住めやしないよ〜〜、ってことになったせいで、お金持ちはどんどん郊外に出て、大きな企業もダウンタウンを美化するよりも、郊外にでかい本社ビル建てる方が賢いってことで、ダウンタウンはゴーストタウン化して、デトロイト郊外はすっかり大都市になっているのです。ちなみに私の会社もデトロイト郊外にありますし、郊外はとっても治安もよく、住みやすい都市が多いです。

っていう状況なのに、ぱたとあれっくすはまだダウンタウンにいるのです。なんで郊外に出ないのか。あれっくすが通っている(そしてぱたも通っていた)大学が、デトロイトのダウンタウンにあるので、二人はそこの寮に住んでいるわけです、いま。だからだと思われます。寮だから安いし。まあ、引っ越すお金がもったいないってのと、治安が悪いのも住み続けていると平気になってくるという、恐るべき慣れからでしょう。ちなみに、うちの向かいの通りでいきなり車が爆発したり、斜向かいのお宅で大麻を栽培しているんじゃないか?と思われる畑があったり、寮の駐車場に、月に一回の割で駐車してある車が壊されて中のラジオやカーステが盗まれていたり、夜中に銃声が響き渡ってその後サイレンが一晩中鳴ってる、なんてことはよくありますが、そんなことで騒がなくなってしまうのです・・・(もちろん、引っ越した当初は大騒ぎして、そのたびにあれっくすの実家に電話かけて「信じられない、信じられない」と愚痴を言っていましたが)。

あれっくすがあった被害では、彼が日本旅行をしたとき。寮の駐車場に車を止めて、一カ月ほど留守をした。あれっくすがデトロイトに帰ってくると、あれっくすの車の「運転席のドアとカーステ」が盗まれていた・・・どちらも純正品であり、高くも立派でも、新しくもないのに・・・ドアまで持ってちゃって、一体どうしたんだろう・・・?

ぱたがあった怖い目は、目の前であった強盗。あれっくすも一緒にいたんだけど。まだぱたがアメリカでの正しい車の運転のしかたを知らなかった時のことです。日本だと、運転中は車間距離を空けていても、信号なんかで停まったときは、詰めて停まりますよね?ところが、アメリカでは、前の車と十分距離を空けて停まるんです。なんでかっていうと、路上でホールドアップにあわないためなんです。そんなの習わなかったぞ!と思うけど、実地で怖い目に遭って、よーく分かりました。

あれっくすを助手席に乗せて車を運転していて、とある信号で前の車が停まったので、詰めて停まったんです。あれっくすは、私がそうやって停車するたびに「もっと間を空けて止めろ!」とうるさかったのですが、ぱたはあんまり深刻にあれっくすの言葉を受け止めず、しょっちゅう日本式の停車をしていました。このときもそうしたのです。時刻は夕方、ちょっと薄暗くなりかけの、うちのアパートの目の前の信号で、です。

突然、道端にいた二人のお兄ちゃんが、前の車に近寄りました。なんだろう?知り合いかな〜、なんて気楽に思っていたとたん、「がっしゃーん」お兄ちゃんの一人が、レンチのようなもので、前の車の運転席のガラスを叩き割ったんです。え?!と思った瞬間、前の車に乗っていた女の人が、車から引きずり出されてホールド・アップ。強盗です。

そして、もう一人のお兄ちゃんが、やはり手にレンチのようなものを持ってこっちを見ているではないですか!!ぱた、完全パニックです。生命の危険が目の前だって言うのに、手も足も動かない!

あれっくすが「おい、逃げろ!車出せ!!」と怒鳴ったので、はっと我に返って車を出そうとして気付く。前の車に詰めて停車しすぎたせいで、いったんバックしないとこの状況から抜け出せないのです。

「ああ〜〜、リバース、リバース!ちょっとなんで入らないのよ!ああ、早く早く〜〜!」心臓はがんがんなっているのに手も足も思い通りに動かない。やっと入ったので後を振り返ると、すぐ後の車が私の車の後ぴったりについているような気がして、バックできない。後の車が次々とこの状況から脱出しているのに、私は動けない〜〜。あれっくす助手席で「だから車間距離空けろっていってただろーがー!!」と怒鳴ってる。ごめんよごめんよ〜、今度からちゃんと停めるよお〜って思ってるけど、今さらどうしようもないし(ここでもパニックに弱いことを露呈していたことにいま気付いたぱた)。前に向き直ると、さっきのお兄ちゃんがこっちに歩いてくる〜。ぎゃー、来るな来るな〜。もうぶつけてもいいから後に下がろう、と思ったときです。

フリーズ!」私の横を、でかい体の私服刑事さんが銃を構えながら、そのお兄ちゃんに近づいているではないですか。おーブラボーブラボー!警察万歳!このまま悪いお兄ちゃんたちを懲らしめてやってくれ〜〜。ぱた、九死に一生を得た気持ちで、刑事さんを食い入るように見つめている・・・と。「こら!何やってんだ早く車出せ!!」あれっくすの声。そうだよね、あの刑事さんが殺されちゃって、またもやこっちに危険が降りかかってくるかもしれないよね、と、ぱたはすたこら〜〜とバックしてその場を逃げ出しました。本当に怖くなければ、ちゃんと理性的に動けるのですよ、私も。

こんな事が平気で起こっているところに住んでいるんです。この話は、かなりすごい一つ話だわ!と思って、会社で同僚なんかに嬉しそうに話してみたのですが、「そんなの詰めて停車するからだよ」とか、「デトロイトを車で動くのに携帯電話持ってないの?怖くない?」あげくには「銃ちゃんと携帯してるの??(ミシガンでは携帯許可なしで銃を持ち歩くのは違法だっつーの)」なんていう反応でした。

こんな所にいるんじゃうっかり友達も呼べやしないし。せっかく来てもらって、帰るときに乗ってきた車が盗まれてたりしたらどうしよう(あれっくすの車はもちろん盗難保険を掛けているけど、普通の人もかけているのか?)。それだけならいいけど、帰りにホールドアップなんかにあって殺されちゃったりしたら、申し訳なさすぎて・・・


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