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今を遡ることウン年前、ぱたとその弟は、親元を離れて、同じ大学に通っていました。ということで、生活費も節約できるし、ということで同じアパートに同居していたのです。ちう事で想像できるように、まあ、姉弟としては仲のいい方だったといえるでしょう。アパートのロケーションとしては、すぐそばにつぶれかかったスーパーがあって、そのとなりにビデオ屋(新作でさえ2本くらいしか入荷しないという規模)があるという、ありがちな学生街のアパートでありました。
二人とも、つきあっている異性がいない時期は(特に冬)、こたつにはいってタバコを吸いながらテレビを見るか、どっちかがプレステをしているのを眺めている、という非常につまらない日常を送っていました。そのこたつの回りにはゴミや脱いだものが山のように散らかり、たまりにたまったヤンマガやスピリッツ(どちらも子供向けではないところの週刊のマンガ雑誌)に埋もれていた、と思って間違いないです。こたつの上には、山のようになった吸い殻が一杯の灰皿が二つと、飲みかけの1.5リットルのウーロン茶が放置してある・・・経験したことのある人なら分かる、むさい学生生活の一こまです。
そんなぱた姉弟でしたが、二人とも同じ種類の映画(サスペンスやパニックもの)が好き、ということで趣味が一致しており、余りにも面白いテレビがないときとか、新しいスピリッツを読んでしまって暇な時は、ビデオを借りることにしていました。どっちかがバイトの帰りに大きくて立派なビデオ屋さんから新作を借りて帰ることが多いのですが、そのほかにも、食べるものがない時など、スーパーに食料調達に行って、その帰りにとなりの小さなビデオ屋でビデオを借りる、ということも少なくありませんでした。
ところで、二人とも、そのスーパーのとなりにあるビデオ屋の常連でもありました。というのも、そのビデオ屋では、ついでに週刊マンガも売っていたのです。たぶん、もともとは本屋だったとは推察します。色の褪せた、古そうなマンガも置いてあったりしました。前出したヤンマガやスピリッツを購入するには、本屋かコンビニに行かねばなりませんが、そのどちらもがアパートからは遠かったので、自然、どんなに小規模で、おっさん一人が店番をしているような商いをしていても、その近辺のかなりの学生がそのビデオ屋でマンガを買っていたとは思います。ぱた姉弟もそうでした。
マンガを買いに行くと、当然カウンターまでマンガを運ぶことになります。そうすると、カウンターのそばにあるビデオラックに乗っているレンタルビデオを何の気なしに眺めることになります。そうすると、「あ、新作出たな」とか、「ああ、このビデオは当店お勧めなのか(そういうステッカーがビデオの箱に貼ってあったりする)」とか、「このビデオっていつ見ても貸し出し中だけど、よっぽど人気があるのか、もしくは誰かが延滞しているのか」などと一人ぼんやり考えることも多いです。
そんな仲で、ひときわ私の目を引いていたのが、「タワー」という、一見サスペンス風なビデオでした。サスペンスに目がないぱたではありますが、何がぱたの目をそんなに引いたのかというと、そのケースに貼ってある“面白さ BANG 爆発!”という、いかにもチープな手書き風ステッカー(しかも蛍光オレンジ色)だったのです。
こんなステッカー、いくら売上アップ用とはいえ、市販されてるものなのだろうか、もしかしたら店のおっさんが暇な時に作ってんちゃうか、このばんぐ、ってなんやねん?と、マンガの代金を払うまでぼんやりとそのビデオを見つめていたりしたものです。まあ、聞いたことのないタイトルだし、借りてみるまでもないか、ぐらいのアピール度でしたが。
◆ ある冬の夜、ぱたが弟と一緒にまたもやゴミに埋もれながらテレビを見ていたのですが、どこにチャンネルを合わせても、面白い番組をやっていない。「姉ちゃん、ビデオ借りにいかん?」と弟に話しかけられ、「そうやねえ、じゃ、借りにいっか」というわけで、スーパーのとなりにあるビデオ屋に足を向けることに。
「何にする〜?」と二人で棚の回りをぐるぐる。そういうときに限って、新作が全然出てないときとか、出てても全部貸し出し中とかで、これ!というビデオが見つからない。でもこのままアパートに帰るのもしゃくである。寒い中わざわざ出てきたわけだし。そこで弟の一言。
「姉ちゃん、このタワーってのどう思う?俺、いっつもマンガ買うとき気になっとってんけど。この面白さ BANG 爆発!っての、面白いんかなあ」
そう!私もいつもそう思っていた!その勢いで、そのステッカー推薦の「タワー」を手にとってみた。裏を返すと「完全コンピュータ化されたハイテクビルが人を襲う!恐怖の中、彼らは助かるのだろうか・・・(この文面はよく覚えていないので、記憶の中のあやふやな一節から抜粋)」ありふれたパニック物のようにも見えるが、こういうのが面白いのかもしれない、とぱたはそれを借りることに決定。
さー、見よう。ビデオにガッチャッと入れて・・・「タワー」おいおい、予告編とかそういうのないんかい・・・と思っているうちに映画は始まった。
ところで話は変りますが、ぱた姉弟は、外れの映画の場合は、たいてい最後までは見ずに途中で巻き戻し「お前返しとけよ」とお互いに責任をなすり合うことが多いです。面白くないと思ったら、時間を無駄にせずに途中でやめてしまうのが、賢い方法でありましょう。
そこで、いきなり結論からいうと、ぱた姉弟は、その映画を最後まで見てしまったのです。そう、もう始まって5分くらいでつまらない、ということは明白だったのに、“面白さ BANG 爆発!”が私たちを操ったのです。もしかしたら、このあと面白くなるのかも、ここまでは前振りで、これから血沸き肉踊る展開になるのかも、という思いのために、どうしても途中で巻き戻すことが出来ず。あの、パチンコの放出台でつい突っ込んでしまう気持ちとも似ているかもしれません。
これだけだとあまりにもどんな映画だったのか分からないと思うので、簡単に説明をしておきましょう。つまり、完全にコンピュータ管理された、ハイテクビルってのがあって、そこで働いている男の子が、たまたまIDカードを持ってくるのを忘れたかなんかしたんだけど、守衛さんに言って入れてもらったと(この辺りですでに、どこがハイテクビルじゃ、という気もしてくる)。で、コンピュータはそれを認識できなくって、彼を侵入者と断定して、殺そうとするわけざんす。殺すだあ?
ま、そういう設定なんだから文句を言っても始まらないけど、まずなんやねんこの舞台装置。なんで出演者が6人くらいしかおらんのよ。ハイテクビルって、あんたあんな巨大なビルに6人しか人おらんって時点で、もううさん臭さ爆発って感じや。
そんでもって、いくらだね、侵入者を追跡してどうのこうのする装置、とはいえ、そんな会社の重役のオフィスに造り付けになってるサウナが、なんで何百度まで温度上がるようになってんのよ。だいたい、サウナってのは、人間が自然に燃え出すくらいまで温度上がるんかいな。
その巨大なビルを管理しているコンピュータってのが、何だかマッキントッシュのカラー・クラシックみたいな大きさなのはなぜ?端末の一つ、ってことなのか?でも、話の流れだと、そのコンピュータが管理しているような言いぐさだったが。せめてクアドラくらいは使ってほしかった。
それよりも!もう最後の大詰めのシーン、逃れる主役とその彼女が地下階に行くんだけど、突然地下階全体が、マイナス何十度の世界にまで下がる。バナナで釘が打てますよ。それもコンピュータが侵入者を抹殺するためのプロセスらしいが、
でもって、その絶体絶命のピンチを、主役とヒロインがどうやって逃れたと思う?ぱたも弟も、ここまでがこんなにくだらなくても、ここで「あ!」と言わせる何かがあるのかも、と、ちょっと身を乗り出して画面を見つめる。
「さあ、歌うんだ!歌えば、コンピュータは狂う!一緒に歌おう!」
なんや〜それ〜?
主役とヒロインは手を取り合って、愛の歌を歌う。そうすると、そこら中凍っていた地下がざあざあと音を立てて溶けていく。
「あ、あそこが出口よ!」
ふ、ふざけんな〜。まあ、確かに、初めの方で「歌うとコンピュータの調子がちょっとおかしくなる」っていう伏線はあったよ。納得は出来んけど、伏線は伏線やった。でも、だからって、ここでいま見たものを納得しろってほうが無茶やよ。
あ、あ、あ、二人は地下から脱出したよ。おーおーなんだか地面がぐらぐらしてるけど、ん?ん?
「ビルが崩れる!走るんだ!」
ちょっとまて〜。このビルは、侵入者があるたびに崩壊すんのか?
プログラマー出てこーい!走る二人の後ろで、ハイテクビルは大爆発。
「助かったのね・・・」「そうだよ、もう安心だ・・・」
はぁぁぁ。よかったね。お、クレジットが出てきたよ、ヂ・エンドってか?
見終わったあと、ぱたと弟は、思わずお互いに顔を見合わせてしまいました。誰が貼った、“面白さ BANG 爆発!”。何かの冗談か?それともこれを貼ったやつは、本当に面白いと思ったんか?
二人は無言でビデオ屋に行き、黙って「タワー」を返しました。
◆ しかしこの話には続きがあるのです。
このビデオ屋、つぶれそうなわりにはいろいろ工夫することにしたらしく、それからしばらくして「当店のレンタルベストテン」などと銘打って、借り出しの多いビデオの名前を上から10個、張り出すことにしたらしい。ビデオラックの上から、ぶらりと垂れ下げてある。最近入った新作が上位5位くらいを占めていたのだが、
なんと「タワー」、7位につけている。
これ発見したのは、ぱた弟。「おいおい、姉ちゃん、ちょっと上見てみ」
みんな“面白さ BANG 爆発!”に騙されたね、何人が悔し涙を流したのだろう、と同情を禁じえなかったです。でもって、「タワー」の箱をみてみると“レンタル中”の札が・・・ああ、今日もどこかに犠牲者が・・・
「タワー」、そのビデオ屋がつぶれるまで、ベストテンに入っていました。どなたか、この映画見たことある方いらっしゃいますか?是非、ぱた弟とともに、語り合いたいです。